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東京高等裁判所 昭和38年(く)78号 決定

少年 Y(昭二二・一・三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、原決定には、決定に影響を及ぼす法令の違反があり、また原決定の処分は著しく不当であるから、これを取り消し相当の裁判を求めるというのであつて、その理由とするところは附添人古賀光豊提出の抗告申立書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  法令違反の主張について。

本件保護事件の記録によれば、少年の保護者父吉○慶○、母吉○富○が昭和三八年七月一九日の審判期日に出席し、最終陳述として、「事件については誠に申訳なく思つています」との旨の意見を述べ、原裁判所は、右保護者の陳述を聞いてから、本件保護処分の決定を言い渡したことを明白に認めることができる。それ故、原裁判所が、保護者に意見を述べる機会を与えないで、保護処分の決定をしたとの主張は理由がない。

次に、右記録によれば、原裁判所が本件保護処分の決定を言い渡すに当り、少年及び保護者に対し、保護処分の趣旨を説明した事実は明らかではないが、裁判所が保護処分の決定を言い渡す場合において、少年及び保護者に対し、保護処分の趣旨を説明したという事実は、審判調書の必要的記載事項(少年審判規則第三三条参照)ではないから、同調書にその旨の記載がないからといつて、直ちにその事実がなかつたものとすることはできず、保護処分の趣旨の説明の如く、少年事件の審判手続において通常行われる事項は、特に審判調書にその旨の記載がなくても特段の事由のない限りは、行われたものと推定するのを相当とするのみならず、元来保護処分の趣旨の説明についての同規則第三五条第一項の規定の如きは、いわゆる訓示規定と解すべきものであるから、仮りに、裁判所がその説明をしなかつたからといつて、保護処分の決定に影響を及ぼす法令の違反があるとすべきものではなく、本段の主張もまた理由がない。

二  処分が著しく不当であるとの主張について。

本件保護事件の記録及び本件少年調査記録によれば、少年は、既に中学校時代から交友関係が極めて不良であり、中学校卒業後数々の非行を累ね、昭和三七年一〇月原裁判所の審判に付せられ、保護観察の決定を受け、保護観察中の身であるに拘らず一向に反省改悛の模様なく、またまた本件犯罪事実を敢行したものであつて、かかる少年の資質、性格等にかんがみると、最早少年自身に自力更生を期待することは困難であると認められるのみならず、その家庭環境に至つては、父慶○は情婦を囲つて妻子を顧みず、ために家庭内の風波絶え間なく、父母共に少年に対する指導能力及び積極的な保護意欲を全く欠如し、従つて在宅保護による少年の改善は、到底その見込がないと認められる。

叙上少年自身の反社会的性格、本人に真剣な更生意欲が欠けていること並びにその好ましからざる家庭環境にかんがみると、この際少年の生活環境を改め、不良な交友関係を絶ち、規律ある生活訓練と矯正教育とを施す措置を講じ、以て少年の健全な育成を図る必要があるものというべく、これと同趣旨に出て少年を中等少年院に送致する旨決定した原裁判所の処分は相当であり、右処分を目して著しく不当であるとする主張は理由がない。

よつて、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 坂間孝司 判事 栗田正 判事 有路不二男)

参考二

抗告申立書

少年 Y

右の者に対す東京家庭裁判所八王子支部昭和三八年少第二〇二八号同年少第二〇七三号少年事件に付同裁判所昭和三八年七月一九日少年に対して中等少年院に送致すると宣告された決定に対して抗告の理由を左記の通り申立る。

抗告の趣旨

原決定を取消し

少年を従前の保護監察を継続する旨の御裁判を求める

抗告の理由

一、少年は昭和三八年二月中明治神宮附近において他の少年三名と共に通行中の一少年に対し些細なことから口論となり、同少年の顔面を殴打し左側眼部に打撲傷を負はしめた外前後三回に亘つてカメラ三個及現金二万六百円を窃取し、少年等が之を分配消費したものである。

二、以上の犯行によつて昭和三八年七月一九日東京家庭裁所八王子支部より少年を少年院に送致するの宣告を受けたが、右宣告当日には保護者たる少年の父母が出頭したにも拘らず裁判官は保護者等に対して意見の陳述を為す期会を与へることなく、且つ保護処分の趣旨を説明されない儘直ちに少年を少年院に送致する旨の宣告が言渡されたので、右審判は少年審判規則第三〇条及同法第三五条に違背した違法があるものと思料する。

三、尚少年は右非行については十分反省しており、昭和三八年七月二六日保護者母が面会に出掛けた際には少年の真面目な態度が歴然として現はれており、被害者間においても示談の話合が進行しているので、審判が更新される日には必ず示談書を差出す用意があります。

昭和三八年八月一日

北多摩郡調布市○○町○○○○番地

右保護者父 吉○慶○

八王子市明神町四八八番地

右附添人 古賀光豊

東京高等裁判所御中

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